「うちのスタッフ、挨拶がまだ弱くて…」「感謝の言葉が少なくて、職場の雰囲気が暗い」「指摘しても素直に受け取ってくれない」――そんな悩みを抱える経営者・管理者の方は多いのではないでしょうか。人材育成は、特別な技術を教えることより「当たり前のことを当たり前にやり続ける力」を育てることから始まります。今日は先人の知恵から、介護・福祉の現場で使えるチームづくりのヒントを学んでみましょう。
凡事徹底――鍵山秀三郎が貫いた「普通を非凡にやる」哲学
イエローハット創業者・鍵山秀三郎氏(1933〜2025)が生涯を通じて実践した「凡事徹底」の精神は、経営者・管理者として多くの示唆を与えてくれます。
鍵山氏はこう語りました。「私には人より抜きん出た能力は一つもない。商売の才覚もない。リーダーシップもあるとはいえない。そんな平凡な私がいままで事業を続けてこられたのは、トイレ掃除を通して『誰にでもできることを、誰にもできないくらい、徹底して続けてきた』という以外に理由は見当たらない」(『凡事徹底』致知出版社)。
鍵山氏は創業以来、毎朝一番にトイレを掃除し続けました。最初は誰も一緒にやろうとしなかったそうです。しかし何年も続けていると、少しずつ仲間が増え、やがてそれが会社の文化になっていきました。「社風が悪い会社で、未来永劫よくなった会社はありません」という鍵山氏の言葉は、介護・福祉の現場にも深く刺さります。
介護現場に置き換えると、「毎朝気持ちのいい挨拶をする」「利用者さん一人ひとりへの声かけを丁寧にする」「記録を正確に書く」といった日常の「凡事」がここに当たります。これを毎日、全スタッフが徹底できる職場こそが、利用者・ご家族・地域からの信頼を育てます。
押さえておきたいポイント
- 「凡事徹底」とは「誰にでもできることを、誰にもできないほど徹底して続けること」
- 管理者が率先して「小さな当たり前」を実践し続けることで、職場の文化になる
- 挨拶・声かけ・記録などの「当たり前」こそが、介護の質と信頼の土台をつくる
出典:鍵山秀三郎『凡事徹底』致知出版社 https://online.chichi.co.jp/category/BOOK/348.html
松下幸之助が最も大切にした「素直な心」
「経営の神様」と称された松下幸之助氏(1894〜1989)が晩年もっとも重視したのが「素直な心」でした。松下氏の言う「素直」とは、単なる従順さではありません。「知識や先入観にとらわれず、物事をありのままに見ようとする心」のことを指します。
松下氏はこんな言葉も残しています。「松下電器は何をつくっているのか。人をつくっています、あわせて電気器具もつくっています」。この言葉の通り、松下氏は人材育成を経営の根幹に置いていました。そして、伸びるスタッフの共通点として「素直さ」を挙げ続けました。
素直な心を持つ人は、先輩のアドバイスをありのまま吸収します。自分の至らなさを認め、改善に動けます。逆に、自分のやり方への固執が強いと、どれだけ研修を実施しても成長の機会を自ら閉じてしまいます。リーダー自身が素直な姿勢を見せることが、職場全体の学び合う文化への第一歩です。
押さえておきたいポイント
- 素直な心とは「こだわりなく物事をありのままに見ようとする心」(松下幸之助)
- 「まず人をつくる」ことを経営の核心に置いた松下氏の視点は、介護経営にも通じる
- 管理者・リーダー自身が素直に学び続ける姿が、スタッフへの最大の教育になる
出典:PHP研究所「リーダーに求められる素直な心とは?」https://hrd.php.co.jp/management/articles/post-1232.php
挨拶・感謝・向上心――「当たり前」の積み重ねが介護チームを強くする
凡事徹底と素直な心。どちらも「特別なスキル」ではなく、日々の習慣と姿勢の問題です。介護・福祉の現場でチームを強くする「当たり前」を、具体的に整理しておきます。
①挨拶:「おはようございます」「ありがとうございました」のひと言から、職場の雰囲気はつくられます。スタッフ同士が気持ちよく挨拶できる職場では、利用者への声かけも自然と丁寧になります。管理者が率先して声をかけることが、最も効果的な「教育」です。
②感謝:「ありがとう」と言える文化は、スタッフの離職防止に直結します。「自分の仕事は見てもらえている」という安心感が、定着と主体性を育てます。小さなことでも言葉にして伝えることを習慣にしましょう。
③素直さと向上心:「もっとよくなりたい」という前向きな気持ちと、「まだ知らないことがある」と認める素直さが重なるとき、スタッフは確実に成長します。研修も、OJTも、この土台があって初めて機能するのです。
押さえておきたいポイント
- 挨拶・感謝・素直さは「一度教えれば身につく」ものではなく、毎日の積み重ねで根づく
- リーダーが最初に実践することで、職場全体に伝わっていく
- 「当たり前」を徹底できるチームは、技術の向上も、定着率の改善も早い
まとめ
鍵山秀三郎氏は「誰にでもできることを、誰にもできないほど徹底して続ける」ことの大切さを身をもって示しました。松下幸之助氏は「まず人をつくる」ことを経営の核心に置きました。どちらの教えも、介護・福祉の現場の人材育成に深く通じています。挨拶、感謝、素直さ――これらは新しいスキルではありません。しかし、それをチーム全員が毎日継続できる職場をつくることは、実は最も難しく、最も強い経営課題です。管理者・リーダー自身が今日から一つの「凡事」を丁寧に続けることが、チームづくりの確かな一歩になるはずです。
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