2026/08/08

二宮尊徳の「報徳思想」に学ぶ介護経営|一円融合・分度と推譲が導く地域貢献【介護事業所の経営者・管理者向け】

「今月も研修と人手不足のやりくりで精一杯だった」——そんな一週間の終わりに、ふと立ち止まって考えたくなることはありませんか。目の前の業務に追われる毎日の中で、何を大切にして事業所を運営していけばよいのか、迷う瞬間は誰にでもあります。

今回は、江戸時代後期の農政家・二宮尊徳が説いた「報徳思想」を手がかりに、介護・福祉の経営者・管理者が日々の実践に活かせる心構えを考えてみます。

二宮尊徳とは何をした人か──「報徳思想」の基本

二宮尊徳(1787〜1856)は、相模国(現在の神奈川県小田原市)の農家に生まれ、少年期に家が没落しながらも独学で学問と農業技術を修め、後に600以上の農村復興・財政再建を手がけた人物です。その実践から生まれた思想が「報徳思想」で、私利私欲に走らず社会に貢献すれば、やがてそれが自らにも還元されるという考え方を核にしています。

報徳思想は「至誠(しせい)」「勤労(きんろう)」「分度(ぶんど)」「推譲(すいじょう)」という4つの教えで構成されています。至誠とは天地自然や他者に対する深く純粋な真心のこと、勤労とはその真心をもって日々の仕事にあたること、分度とは身の丈に合った暮らしを守り無駄を慎むこと、推譲とはそうして生まれた余力を社会や次の世代のために差し出すことです(出典:報徳二宮神社Wikipedia「報徳思想」)。

介護・福祉の現場に置き換えると、至誠は利用者やスタッフへの誠実な向き合い方、勤労は日々のケアそのもの、分度は限られた人員・予算の中で身の丈に合った運営をすること、推譲は事業所が生み出した力を地域や次の世代の人材育成に還元することと重なります。

押さえておきたいポイント

  • 報徳思想の核は「私利私欲より社会貢献、それが巡り巡って自分に還る」という考え方
  • 4つの柱=至誠・勤労・分度・推譲は互いに関連し合う循環構造
  • 分度(身の丈に合った運営)と推譲(余力の還元)は、限られた資源で運営する介護事業所にも通じる視点

一円融合の教え──立場の違いを超えてひとつになる現場づくり

尊徳の教えの中でも「一円融合」は、あらゆるものを切り離して考えるのではなく、ひとつの円の中に包み込んでとらえる考え方です。対立しがちな立場や利害も、ひとつの円の中で互いに働き合い、一体となったときに初めて良い結果が生まれるとされています(出典:東証マネ部!)。

介護の現場は、正社員・パート・夜勤スタッフといった多様な働き方の人が関わり、さらに利用者・ご家族・医療機関・地域住民など、立場の異なる人たちが一つのケアに関わっています。それぞれの事情や役割が違うからこそ、「誰かの得は誰かの損」という発想ではなく、「みんなの力が合わさって一つの円になる」という尊徳の視点が助けになります。夜勤明けのスタッフとパートスタッフ、ご家族と現場職員、それぞれの立場を対立させず一つの目的でつなぐ意識が、チームの土台になります。

押さえておきたいポイント

  • 一円融合=立場の違うもの同士が一つの円の中で働き合い、結果を生むという考え方
  • 多様な働き方が混在する介護現場ほど、対立ではなく調和の視点が必要
  • 利用者・家族・スタッフ・地域を「別々の利害」ではなく「一つの円」として捉える

積小為大と万象具徳──小さな実践と地域貢献への広がり

尊徳はもう一つ、「積小為大(せきしょういだい)」という教えも残しています。大きなことを成し遂げるためには、小さなことを怠らず積み重ねることが不可欠だという考え方です。また「万象具徳(ばんしょうぐとく)」は、あらゆるものにはそれぞれ良い点=徳が備わっているという教えです(出典:真岡市公式ホームページ)。

介護の仕事は、一つひとつのケアや声かけ、記録の積み重ねが利用者の暮らしを支えています。派手な成果より、日々の小さな実践を丁寧に積み重ねることこそが、事業所の信頼につながります。そして万象具徳の視点に立てば、経験の浅いスタッフにも、認知症のある利用者にも、それぞれの徳や強みがあるという見方ができます。推譲の教えとあわせて考えれば、事業所が地域の見守りや相談に応じたり、地域のイベントに協力したりすることも、報徳思想でいう社会への還元の一つの形だといえるでしょう。

押さえておきたいポイント

  • 積小為大=小さな実践の積み重ねが、大きな成果や信頼につながるという教え
  • 万象具徳=経験や立場を問わず、一人ひとりに徳(良い点)があるという視点
  • 事業所が培った力を地域に還元する姿勢が、報徳思想でいう「推譲」の実践になる

まとめ

二宮尊徳の報徳思想は、200年近く前の教えでありながら、限られた人員と予算の中で日々の運営に向き合う介護・福祉の現場にも通じる視点を与えてくれます。至誠をもって目の前のケアに取り組み、分度を守りながら無理のない運営をし、生まれた余力を地域に推譲していく。そうした積み重ねが、事業所とスタッフ、そして地域全体の信頼につながっていきます。

週末のひととき、自事業所の運営が「一円融合」の視点に立てているか、少し立ち止まって考えてみるのもよいかもしれません。


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この記事の監修
監修者 塙啓之

塙 啓之はなわ ひろゆき
株式会社はなひろ 代表取締役

介護業界で25年以上、現場・介護施設の管理者・ケアマネジャー(介護支援専門員)を経験。2013年に株式会社はなひろを設立し、福島県須賀川市・郡山市・矢祭町でデイサービスなどの介護事業所を運営しています。一般社団法人 全国介護事業者連盟 福島県支部 副支部長。

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