「新人スタッフの挨拶や報告・連絡・相談がなかなか定着しない」「感謝の言葉が飛び交うチームにしたいけれど、日々の忙しさに追われて後回しになってしまう」——介護・福祉の現場でこうした悩みを抱える経営者・管理者の方は少なくないはずです。実はこの答えのヒントは、江戸時代の人づくりの知恵の中にあります。今日は二宮尊徳と上杉鷹山、二人の先人の教えから、人材育成のヒントを探ります。
二宮尊徳に学ぶ「積小為大」——小さな積み重ねが人を育てる
二宮尊徳(金次郎)は、貧しい農家に生まれながら荒れた田畑や困窮した藩の財政を次々と立て直した江戸後期の農政家です。幼い頃から薪を背負って働きながらも学問を怠らず、地道な努力を積み重ねて多くの村を再興したことで知られています。尊徳の教えの核にあるのが「積小為大(せきしょういだい)」という考え方です。門人がまとめた「二宮先生語録」には、次のような言葉が残されています。「大事を成し遂げようと思うものは、まず小事を努めるがよい。大事をしようとして小事を怠り、できないと嘆きながら行いやすいことを努めないのは小人の常である。およそ小を積めば大となるものだ」。一万石の米も一粒ずつの積み重ね、万里の道も一歩ずつの積み重ねだという考え方は、そのまま介護現場の人材育成にも当てはまります。挨拶を交わす、記録を丁寧に書く、申し送りを漏らさない——一つひとつは小さな行動でも、それを積み重ねた先にしか、信頼されるスタッフも安定したチームも生まれません。
押さえておきたいポイント
- 「積小為大」は、小さな行動の積み重ねが大きな成果につながるという二宮尊徳の教え
- 出典:「二宮先生語録」(一般社団法人 報徳博物館「今も大切にしたい二宮尊徳翁の教え」 https://www.hotoku.jp/information/doctrine2.html )
- 介護現場では「挨拶・報告・記録」など日々の小さな行動の徹底が、質の高いケアとスタッフの成長の土台になる
上杉鷹山に学ぶ「三助の精神」——人を育てる仕組みをつくる
米沢藩の名君として知られる上杉鷹山(治憲)は、17歳で藩主となった当時、財政破綻寸前だった米沢藩を立て直した江戸中期の大名です。鷹山が改革の柱に据えたのが「自助・互助・扶助」の三助の精神でした。まず自分自身で努力する「自助」、次に近隣や仲間同士が助け合う「互助」、そして藩(組織)が手を差し伸べる「扶助」——この三つが揃って初めて、人も組織も持続的に成長できるという考え方です。あわせて鷹山は、恩師である細井平洲を学館長に迎えて藩校「興譲館」を創立し、倹約や新規事業と並ぶ改革の柱として人材育成に力を注ぎました。一人のスタッフの頑張り(自助)だけに頼らず、チームで支え合う仕組み(互助)と、事業所として学びや評価の場を用意する仕組み(扶助)を組み合わせることが、鷹山の改革から見えてくる人材育成の要諦です。
押さえておきたいポイント
- 上杉鷹山は「自助・互助・扶助」の三助の精神で米沢藩の改革を進めた
- 出典:米沢市「なせば成る!上杉鷹山公の歴史」 https://www.city.yonezawa.yamagata.jp/promotion/charms/9088.html/嚶鳴協議会「上杉鷹山」 https://oumei-forum.tokai-arts.jp/senjin/youzann/
- 個人の頑張り任せにせず、チームで支え合う仕組みと事業所が学びの場を用意する仕組みをあわせて整えることが持続的な人材育成につながる
「当たり前」を当たり前にやることが、最大の人材育成である
二宮尊徳と上杉鷹山、二人の教えに共通するのは「特別なことをするのではなく、当たり前のことを当たり前に、粘り強く積み重ねる」という姿勢です。介護・福祉の現場に置き換えれば、朝の挨拶を欠かさない、ありがとうを言葉にする、先輩の指摘を素直に受け止める、昨日より少しでも良いケアをしようとする向上心を持つ——こうした一つひとつが、尊徳の言う「積小為大」の実践そのものです。そしてそれを個人の努力だけに任せるのではなく、鷹山の「三助」のようにチームや事業所全体で支える仕組みにしていくことで、挨拶や感謝が自然に飛び交う職場文化が育っていきます。特別な研修や制度を一気に整えるよりも、まずは目の前の当たり前を丁寧に積み重ねる。そこに人材育成の本質があるのではないでしょうか。
押さえておきたいポイント
- 挨拶・感謝・素直さ・向上心は、特別なことではなく「当たり前の積み重ね」として捉える
- 個人の努力(自助)を、チームの支え合い(互助)と事業所の仕組み(扶助)で後押しする
- 一気に完璧を目指すのではなく、小さな習慣の徹底から始めることが持続的な組織づくりにつながる
まとめ
二宮尊徳の「積小為大」は、挨拶や報告といった日々の小さな行動の積み重ねこそが人を育てるということを教えてくれます。上杉鷹山の「三助の精神」は、その積み重ねを個人任せにせず、チームと事業所の仕組みで支えることの大切さを示しています。人手不足が続く介護・福祉の現場だからこそ、特別な取り組みを探す前に、当たり前のことを当たり前に積み重ねられる職場づくりを見直してみることが、遠回りのようで実は一番の近道なのかもしれません。
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介護業界で25年以上、現場・介護施設の管理者・ケアマネジャー(介護支援専門員)を経験。2013年に株式会社はなひろを設立し、福島県須賀川市・郡山市・矢祭町でデイサービスなどの介護事業所を運営しています。一般社団法人 全国介護事業者連盟 福島県支部 副支部長。






