2020/03/27

Orange Rendez-Vous – 全てのメランコリアに寄り添い、地域の絆を紡ぐ場 –

「オレンジカフェ ポエム」とは、2013年12月にデイサービスセンターポエム(郡山荒井)で、株式会社はなひろの代表取締役を務める塙啓之さんが「認知症カフェ」として始めたカフェで、2015年4月に郡山市や社会福祉法人、公益社団法人「認知症の人と家族の会」に委託されたのに伴い、名称を「オレンジカフェ ポエム」に改め、今や、自主開催を含め郡山市内14箇所で、月毎にオープンされ、多くの席が埋まる。認知症サポーターのイメージカラーでもあるオレンジ色は、色彩工学によると、頑なな人の心の壁を溶かす様に、誰もの胸の奥深くにじんわりと届く波長を持つと言われる。塙さんは「オレンジカフェ ポエム」を地域貢献活動の一環と位置付けているため、利益は必要ないと考えており、ボランティアスタッフと同じスタンスで自らも参加している。そんな塙さんのオレンジカフェに取り組む理念や地域への愛をガシガシ感じるインタビューである。

石上
率直にお伺いします。「認知症カフェ」を始めたきっかけは何だったんですか?

塙さん
「ここ、デイサービス(デイサービスセンターポエム 郡山荒井)をオープンした時は、月曜日から金曜日までの営業で始まって、土曜日が空いてたんだよね。ただデイサービスを始めるってだけではもったいないなと思って。最初は他の人がやっていないことを何かやりたいと思ったから、せっかく土日、この建物が空いている、使わない日があるのもったいないなと思って、何かに他に使えないかなと思った時に、「認知症カフェ」をどんどん広げたいという話を。インターネットで調べたら、「認知症カフェ」が今後その認知症の人にとって集いの場となって、色々な相談をしたりとか、色々な繋がりができる場所で、広めたいのだけれど、人の問題とか場所の問題とか、運営費の問題とかあって、なかなかそれが広まっていっていないという。ネットで見かけて、「あ、これだー!」と思って。うち調度空いているし、スタッフもいるし。やったら福島でも、郡山でもまだ全然無かったので、たぶん一番最初になるんですけど、まあ、やってみようと思って、「認知症カフェ」という形で始めたのがきっかけ。第三土曜日っていう形で始まってね。」

石上
なぜ”認知症”にフィーチャーしたんですか?

塙さん
「認知症にフィーチャーした理由は、元々ケアマネージャーをしていて、在宅で認知症の方を抱える人と、相談とか受けて、なかなかデイサービスとか、外に出ることが認知症の人ってすごい難しくて、ようやくデイサービスに行くようになった時点で、もう結構大変なんだけど。僕が当時勤めてたデイサービスにもお客さんを紹介して、来てもらったんだけど、30人以上の定員があるデイサービスで、なかなかこう最初デリケートなんだよね。同じことを何回も言っちゃたりとか、周りの人があれって思うことが多いので、それを指摘されるとか、なかなか周りの人から認知症なんだよって認知してもらえないから、「あの人何回も同じこと言ってるなー」とか、を言われるので認知症の初期の人ってやっぱ表情とか、そっちは敏感になるんだよね。元々の原始的なもので、人の表情とかで判断するから、凄く敏感で。やっぱ、もうデイサービスには行きたくないと。「あれ言われたー」とか「ちょっと違う目で見られたー」みたいな形で、もうあんなとこ行かないみたいなことになってしまうケースが多々あったんだよね。せっかく外に出てもらったのに嫌な思いをして、もうそういう所は行かないってなって家に結局いて、家の中でその周辺症状と言われる物忘れだったり、被害妄想だったりだとか、そういったものがどんどん悪化してって、家族さんも疲弊していくのを見てて。結局本人は精神病院に入院だったり、グループ訪問に入所って形で、すぐに住み慣れた家を離れて違う環境に行っちゃうっていうのがあったから、凄く悲しいなと思って。だったらもっと小規模で、職員も手厚く対応できれば、そういうデリケートな人たちも通える場所作り、居場所作りができるんじゃないかなと思って。ここのデイサービス立ち上げる時から認知症初期の人を受け入れしたいっていう思いで、立ち上げてたから、「認知症カフェ」っていう形に。」

石上
認知症の方の相談場所として病院や、ケアマネージャーに相談するのもあると思うのですが、そことの違いとか、その違うプラスな部分はどこにあると思いますか?

塙さん
「病院はあくまでも治療とか、診断を受ける場であって、お薬も大事なんだけど、先生は認知症って診断してお薬を出す。で、お薬をもらって来る。そこが病院で、でも治療で薬を飲んでも、大きな効果はないって言うと言い過ぎかも知れないんだけど。薬を飲むことも大事なんだけど、一番大事なのが、日頃の生活、日常生活なんだよね。家族の対応だったりとか、環境だったりとか、今までの役割をどれだけミスがあっても継続できるか。こういうことが認知症の進行を遅らせるって僕は思っていて、そういったことにアプローチできるのがデイサービスだったりするんだよね。本人の可能性を見出して、できることを続けてやってもらう。それは、家庭の中でも家族さんがやるべきことなんだけれども、家族さんも身内だから、今までできていたことが色々できなくなってくるっていう所の、そのギャップがなかなか埋められなかったりするので。結構その、僕自身も専門職でやってきたけど、親父とかお袋がそうなったら、なんとなくこう、やきもきするみたいなね。感情的になって、それはやっぱり365日24時間いれば、怒りたくもなるし、しかともしたくなるし。なので、そういったところでデイサービスに来てもらって、ちょっとでも家族さんと離れる時間っていう意味でも、デイサービスを使ったりするってことは大事だし、デイサービスもやっぱりそういう人たちを、もう全くできないんだっていう風に思わないで、できることはやってもらう様なスタンスで関わらないといけないかなと思うんだよね。「オレンジカフェ」は、その役割的に言えば、一番最初の入口っていう役割もあると思っていて、病院には行って診断は受けたけど、その後どうして良いか分かんないだとか、ケアマネージャーさんには相談してるけど、もっと認知症の人が集まる所で相談をしてみたいとか、デイサービスまではまだ通う気になっていないから「お茶のみに行こう」って言って気軽に行ってみようって言える場所。」

石上
病院に行って先生と話すのではなく、同じ立場の経験した人と話すからこそ、その「気軽さ」ってところがあって、病院に行くってなると病気なんだって構えちゃうけど、「オレンジカフェ」はカフェだから間口が広いし敷居が低いなって思いました。あと、「オレンジカフェ」をやっててやりがいあるなって思う時とか、やってて良かったなと思う時を聞きたいんですが。

塙さん
来た時と帰る時の表情が全然違かったり、2回、3回って来てもらった時に、来る度に表情が変わっていったり。カフェで知り合ってる人たちで仲良くなってるとか、そういう繋がりとかが持てて、次のアクションが起きた時に「あー、やってて良かったな」と思うし、自分自身も覚えてもらって、自分に会いに来てるってことを、「俺がいるから来てくれてんだ」って、そういうこと言ってくれる人がいるので、それは凄いやりがい。うん、やってて良かったなって。凄いご縁をいっぱいもらって、会社も同時に新しい事業の種になったりとか、新しいアイディアをもらったりとか、そこで凄いやりがいを感じる。やってて良かったなと思うことはそういうところかな。

石上
それは、塙社長が下心なく、本当に自分がやりたいこととして、善意で。休日にやるって凄いことだと思うんですよ!

塙さん
正直に言えば、最初はこのデイサービスセンターポエムを認知してほしいっていう下心はあったよね。最初はね、まあ、下心っていうか、誰もやってないことをやって注目されれば、いいかなって思いはあった。

石上
その下心は、結果的に、「認知症カフェ」に来た人がここ(デイサービスセンターポエム 郡山荒井)を利用するようになったらいいなという思いですか?

塙さん
それはなかったね。どっちかって言うと、こういう誰もやっていない社会貢献的な活動を評価される。そういう認知症の方をターゲットにしたデイがあるというのを地域の人もケアマネージャーにも知ってもらいたかった。

石上
他にどんな人に来てほしいと思いますか?

塙さん
当然、認知症の人には来てほしいし、家族さんにも来てほしいし、僕は専門職の人に来てほしい。ケアマネージャーさんとか、介護士さんとか、看護師さん。でも、専門職としてでなくて来てほしい。

石上
それは、ケアマネージャーさんにリアルな声を聞いて、仕事に活かしてほしいという意図なんですか?

塙さん
それはなぜかって言うと、僕らは話を聞くことはできるんだけど、あの、まず聞くっていうことが大事なんだよね。色々提案したくなったり、助言したくなるんだけど、結構、家族さんとかって勉強してるから、何があるかとか、何を使うかっていうのはわかっているんだよね。うん。大体、勉強しているから。みんな話を聞いてほしい、自分たちがやっていることを認めてほしいっていう思いも、たぶん手探りでやったりしてると思うから、大変だしね。認めてほしいってとこがどっかあんだなって思って。そこに寄り添おうって思っても、俺はまだ自分の親も介護したことないし、デイサービスに来てる間しか見てないし、ケアマネージャーとして本当に1時間訪問してる時しか見てないし、聞いてないし。で、なかなかその人たちに寄り添うってことに限界を感じたの。話は聞けても、気持ちはイメージでしかないから、まあ夜勤とかやってたけど、ずっといたわけじゃないし、その認知症の利用者さんとずっと一緒にいたこともないし、やっぱそこの気持ち、家族さんってどういう思いになっているのかなとか、苦労してる話、困った話、悩んでる話っていうのを聞くことによって、より気持ちが理解できてって、今までの寄り添う距離をもっともっと縮められるんじゃないかなって思うから、専門職の人も来て、悩みをただ聞いてほしいんだよね。色々提案しないでさ。

石上
確かに、本当の日常は分からない訳で、それを少しでも知っていたら、ケアマネージャーさんとしての立場で提案する時に、話や言葉に現実味が出て、もっと言葉が響いて届くのかなって思います。
あと、ボランティアで参加しているスタッフの皆さんについてのお話もお聞きしたいのですが、皆さんはどうやって集まったのですか?

塙さん
「認知症と家族の会は、現在介護中の人とか、今は、介護は終わって、何ていうの、もう見取りも終わって、うん。でもその苦労してることで色々な思いっていうかね、その学んだこともいっぱいあるから。今現在介護中、悩んでいる人に、色々伝えたり、相談してあげたいっていう思いがある人たちだよね。」

石上
それはボランティアで、1円ももらわずにやっているんですか?

塙さん
「今オレンジカフェは、その会自体は、会の活動に関しては、ほぼボランティア。オレンジカフェはいま郡山市から委託を受けているから、スタッフが一回参加すれば1000円とか、もらってる。お弁当とか。」

石上
あんなに熱心に、みんながこの人はこういう人だからっていうのを理解して、一生懸命やっているっていうのが凄いなって思ったんです!

塙さん
「本当だよね。ほぼ、無償に近いもんね。お金じゃないんだよね、この活動ってなんかね。だから、逆に別にお金いらないって思うもん!うん。」

石上
なんで地域貢献活動に力を入れようと思ったのかなって思ったのですが、会社としても、この活動(オレンジカフェ)も地域貢献活動の一環でもあると思うんですよ。なんで、そんなに地域に力を注げるのかなって思って。地域への愛が凄く伝わってきてて。

塙さん
「地域って言うとほら、その人の中の地域の概念って色々あると思うんだよね。この安積町とか、地元矢祭町とか。どっちかって言うと郡山かな、僕の中では、郡山。で、地域に必要とされる企業でありたいなって思いはあって、そういう企業になりたいって思っているよね。うん。この企業が郡山にあってとか、自分たちの近くにあって良かったなあ。本当の社会支援になったらいいなって。うん、だから、一人でも多くの人にうちで提供するもので喜んでもらったり、なんかこう希望持てたりとか、感動してもらえたらいいなっていうのは、純粋に今は思うんだよね。」

石上
塙社長が思う地域っていうのは、オレンジカフェのターゲット層だけでなく、若い世代も入っているからこそ、今僕らがいて、こう福祉の魅力を発信していると思いました!

塙さん
「なんか、どんどんそういう風になってきたよね。最初は狭かったよね。認知症の利用者さん、そして家族、ケアマネージャー、専門職とか、家族の会とか。そんで、今度介護の人材問題とかにもなってきたら、今度、こういう僕たちがやっている事業が継続できなくなるんだよね。やっぱ人があっての事業だから。やっぱり一緒にやってくれる同志、仲間を今後は増やしてかないといけないっていう課題が出てきたから。うん、それがどんどんこう広がってきたっていう。」

「オレンジカフェ ポエム」でのインタビューを通して、お客さんが口々に塙さんに対して、信頼と感謝を話してくれたのが印象的だった。若年性認知症を患う古戸さんは、認知症と診断され手放そうとしていた愛車を譲り渡すほど、塙さんと近い距離感にあり、「乗ってもらえて良かった。たまに見れて嬉しい。」と幸せそうに教えてくれた。父の付き添いで来た渡邉さんも「塙さんがスタッフの方と共に参加してくれるのが嬉しい。ここの人なら信頼できる。」と厚い信頼を寄せる。塙さんも参加したことで自身の社会的信用度が増し、採算以上に大切な繋がりが生まれたと言う。また、利用者の方々にも経験者同士で寄り添い、日々の苦労や相談に始まり何でもない日常までもを共有し、「人と人が繋がるきっかけ」を提供することを目指している。つまりは、塙さんが標榜する地域の共助で福祉が行われるメカニズムの再興のための種が、塙さんがオレンジカフェに取り組む理念や地域への愛により着実に蒔かれていたのだ。いずれ芽が出て、じっくりじっくり時間を掛けて大きく育っていく様に、そのオレンジ色に煌めく地域の輪が拡充し、オレンジカフェが大樹のような包容力と優しさの滲む地域の寄る辺となることを切実に願う。

作 : 「福ひろば」インターンシップ1期生

立命館大学2回 石上温大